版下(はんした)とは、印刷工程において、印刷用の版を作るための元になる原稿やデザインのことを指します。
かつての手作業による印刷や活版印刷の時代には、版下が文字通り「印刷版の下地」となるものでしたが、現代のデジタル印刷においても、その概念は引き継がれ、デジタルデータやフィルムなども版下と呼ばれることがあります。
版下の役割と重要性
版下は印刷の品質や仕上がりに直結するため、印刷工程の中でも非常に重要な要素です。
以下は版下が持つ主要な役割です。
印刷の元となるデザインデータ
- 版下は、印刷する文字、画像、イラストなどをすべて含む、最終的な印刷物のデザインを示します。このデータを基に、実際の印刷用の版が作られるため、版下のクオリティが最終的な印刷結果に大きな影響を与えます。
印刷工程の基準
- 印刷機やデザイナーが印刷の位置や色を確認する際の基準となるため、版下が正確であることが非常に重要です。誤った版下を使うと、印刷物全体にズレや誤りが生じます。
色分解の元データ
- 特にカラー印刷の場合、版下はCMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)の各色に分解され、それぞれの色の版が作成されます。正確な色分解を行うためにも、版下は正しい色構成で準備されている必要があります。
版下の種類
手書き版下
- 印刷技術がデジタル化される前、版下は手書きで作成されていました。デザイナーが直接紙にデザインや文字を描き、これを元に印刷用の版を作っていました。この時代の版下は、レイアウトや書体、文字間隔などを正確に手作業で調整する必要がありました。
カット&ペースト版下
- 写植(写真植字)や、切り貼りの技術を使ってレイアウトを作成する版下。デザイン要素や文字を別々に作成し、最終的な版下としてレイアウトを整えるために、各要素を手作業で切り貼りしていました。
フィルム版下
- 現代のオフセット印刷やスクリーン印刷などで使用されるフィルム版下は、印刷版を作成するために使用される透明なフィルムに、文字やデザインが転写されたものです。このフィルム版下を元に、感光材を使って印刷版が作られます。特にカラー印刷の場合、各色ごとに別々のフィルム版下を作成し、色ごとに分解された画像を印刷します。
デジタル版下
- デスクトップパブリッシング(DTP)の発展に伴い、版下は主にデジタルデータで作成されるようになりました。Adobe IllustratorやInDesignなどのソフトウェアを使ってデザインが作成され、PDFやEPS形式などのデータが最終的な版下として印刷工程に渡されます。デジタル版下では、細かなレイアウト調整や色指定が容易に行えるため、精度が高く効率的です。
版下作成時の注意点
解像度の設定
- 版下に使用される画像やイラストは、印刷時に十分な解像度を持っている必要があります。通常、商業印刷では300dpi(ドット・パー・インチ)以上の解像度が推奨されます。解像度が低いと、印刷物がぼやけてしまい、クオリティが低下します。
フォントと文字サイズ
- 版下に使用するフォントは、印刷工程に対応したものを選びます。特に特殊なフォントを使用する場合、フォントデータが正しく印刷機に送られないと、意図しない文字や書体が使われることがあります。データの保存時にフォントをアウトライン化する(パスに変換する)ことがよく行われます。
カラーモードの確認
- デジタル版下の場合、印刷用のデータはRGBではなく、CMYKカラーモードで作成します。RGBのままデザインを送ると、印刷時に色味が変わってしまうことがあるため、CMYKでの色調整が必要です。また、特色インクを使用する場合、版下でその指定が正確に行われているか確認します。
塗り足しの設定
- 印刷物の端までデザインや画像がある場合、仕上がりの際に白い縁が出ないよう「塗り足し」を設定します。これは、デザインや画像を実際の印刷サイズよりも少し大きめに設定し、印刷後に断裁して仕上げるための余裕です。通常、3mm~5mmの塗り足しが推奨されます。
トンボの設定
- 版下には、印刷物の仕上がりサイズや断裁位置を示すために「トンボ」と呼ばれるガイドラインが設定されます。これにより、印刷後に正確な位置で断裁や折りが行われるようにします。特に、仕上がりが厳密に求められる商業印刷ではトンボの設定が不可欠です。
ファイルの形式と互換性
- デジタル版下では、印刷業者に渡すファイル形式にも注意が必要です。一般的に、PDFやEPS形式での入稿が求められることが多いですが、使用するフォントや画像が正しく埋め込まれていることを確認します。また、バージョンや形式の互換性にも注意し、必要に応じて業者と事前に確認を行います。
版下の製版プロセス
印刷において、版下から印刷版を作成するプロセスは「製版」と呼ばれます。
オフセット印刷のようなプロセスでは、版下を元に感光材を使ってアルミ製の印刷版に画像や文字が焼き付けられます。
製版技術は、印刷品質を左右する重要なプロセスであり、正確な版下があることで、製版もスムーズに進行します。
デジタル印刷と版下
現代のデジタル印刷においては、従来のような物理的な版を作らず、デジタルデータから直接印刷が行われることが一般的です。
これにより、版下の作成プロセスもデジタル化され、手作業で版下を作る必要がなくなりました。
デジタル印刷では、データを直接プリンタに送信するため、デジタル版下の正確性が重要です。
まとめ

「版下」は印刷工程の基礎となる重要な要素であり、印刷の元となるデザインやレイアウトを提供する役割を果たします。
手書きやフィルム時代から、デジタル版下へと進化してきた版下の概念は、印刷の品質を左右する要素の一つで、解像度、カラーモード、フォントの指定など、細かな設定を正確に行うことが求められます。
特にデジタル印刷時代では、デジタル版下の正確な作成と管理が、スムーズで高品質な印刷物を作るために不可欠です。
以上、印刷の版下とはについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

